クロムは鉄より酸素と結びつきやすいという特徴があります。鉄に12%以上のクロムを含ませると、鉄が酸化するよりも先にクロムが酸化し、表面全体にクロムの膜ができます。この膜は無色透明でとても薄い(約50A、1/100,000,000cm)ので肉眼では識別できません。しかし、この膜は化学的に安定で(化学変化しにくい)とても強固なものです。また、緻密で酸素を通さないので酸化鉄(錆び)の発生を防ぎます。この酸化クロム膜は加工・切断などでキズついても、クロムが12%以上あれば空気中の酸素と結合してすぐに再生します。ただし、この膜を再生する時にステンレス内部のクロムの含有量は低くなっていきます。
SUS304=Cr18%+Ni8%。最も代表的なステンレス鋼です。オーステナイト系で18%のクロムと8%のニッケルが主要成分です。「18−8ステンレス」と呼ばれたりします。耐食性は優れていて、機械的性質も良好です。家庭用品から工業用品まで広く利用されています。冷間圧造をすると隠れていた鉄が顔を出します。大きく硬化し、割れたりします。また、磁性が発生することもあり、冷間圧造には適していません。
SUSXM7 = Cr18% + Ni9% + Cu3%。SUS304を冷間圧造しやすくした材料です。耐食性や強度はSUS304と同等です。SUSXM7の登場は画期的なことでした。切削や熱間鍛造の分野のネジまで冷間圧造製造可能になりました。また、大量生産の効果で価格が大幅に下がり、お客様の考え方が「良いのは分かるが高すぎる」から「美しくて錆びずにこの価格なら」へと評価が大きく変化していきました。
XM7という鋼種表示は材料メーカーの開発ナンバーでした。発売後、市場に早く、広く浸透したため、1977年のJIS規格認定時に開発ナンバーがそのまま採用されることになりました。特別扱いをされたということです。
SUS316 = Cr18% + Ni12% + Mo2%
※カーボン(C)含有量0.08%以下
耐食性の良いオーステナイトステンレスの中でも特に耐食性の良いステンレス鋼です。SUS316は、SUS304に耐食性の良いモリブデン(MO)を添加したものです。ニッケルの増量によって耐食性をより良くする効果があります。
SUS316L = Cr18% + Ni12% + Mo2%
※カーボン(C)含有量0.03%以下
SUS316を加工しやすくしたステンレス鋼がSUS316Lです。ニッケルが12%になると硬くなり加工がしにくくなります。カーボンの量を低くすることで、少しやわらかくなり加工しやすくなります。
SUS316L、SUS316「L」はLow Carbon(炭素)を表します。SUS316とSUS316Lの大きな違いはカーボン(C)の含有量ですが、SUS316Lの0.03%以下というのはSUS316の0.08%以下に含まれます。SUS316の注文に対してSUS316Lを納品することは問題ありません。
ステンレス鋼は熱伝導率が低く線膨張係数が大きいため、ナット締付け時にネジ部に摩擦熱が発生します。その熱によってネジ部が膨張して”オネジ”と”メネジ”が密着して動かなくなることです。電動工具(特に高回転機種)を使用する場合は、焼き付き防止の対策が必要です。コーティングや油脂等でネジ部の摩擦(トルク係数)を小さくすることで解決できます。下表にSUS304とSS400の比較をしています。ステンレスが魔法瓶、お鍋、お風呂などに使われるのは熱を逃がさないからです。
材料 | 熱伝導率(W/m℃) | 線膨張係数(×10-6/℃) |
---|---|---|
SUS304 | 16.3 | 17.3 |
SS400 | 50.0 | 11.7 |
− | 鉄の約1/3 | 鉄の約5倍 |
使用条件に見合った表面処理(湿式、乾式)を採用することで、トルク係数が安定し、ボルトに確実な張力を与えることができます。ボルトは張力で部材を締結しているのです。
ステンレス鋼の材料メーカーはユーザーニーズに対応し、様々なステンレス鋼を開発しています。
メーカーのカタログに記載されている鋼種記号(SUS304等)は50種類以上あり、微量な成分の配合や添加を研究し、改良を重ねています。開発された鋼種記号は従来記号と区別され、独自の鋼種記号になるため、従来の鋼種記号と違うなどのトラブルがおきる場合があります。混乱を避けるため、成分の含有量に範囲を定め、クラス分けをし、機械的性質を定めました。それがISO3506-1:1997であり、それに準拠したものがJIS B1054-1:2001です。
A:オーステナイト系ステンレス鋼
C:マルテンサイト系ステンレス鋼
F:フェライト系ステンレス鋼
A、C、Fは金属組織の分類をします。次に成分含有量の範囲を定め、さらに分類をします。組織をアルファベット、成分を1桁の数字で示したものが鋼種区分です。
2-1 オーステナイト系
A-1(オーステナイト系ステンレス鋼Aで成分含有量分類が1のステンレス鋼)
・代表鋼種:SUS303等
A-2
・代表鋼種:SUS304、SUS304J3、SUS305、SUSXM7等
A-3
・代表鋼種:SUS321、SUS347等
A-4
・代表鋼種:SUS316、SUS316L等
A-5
・代表鋼種:SUS316N、SUS316LN等
2-2 マルテンサイト系
C-1
・代表鋼種:SUS403、SUS410等
C-2
・代表鋼種:SUS403、SUS410等
C-3
・代表鋼種:SUS431等
C-4
・代表鋼種:SUS416等
2-3 フェライト系
F-1
・代表鋼種:SUS430等
AとFについては冷間加工によって発生する加工硬化を利用し強度アップを行う事、Cは焼入、焼戻しによって強度アップを行うこととしており、製造工程の違いを明確に分けています。
・A2-50(各種製造方法のもの)
オーステナイト系ステンレス鋼で鋼種区分2の材質を使用し、引張強さが500N/m m2以上のもの
・A2-70(冷間圧造で強度を得たもの)
オーステナイト系ステンレス鋼で鋼種区分2の材質を使用し、引張強さが700N/m m2以上のもの
・A2-80(冷間圧造で高強度を得たもの)
オーステナイト系ステンレス鋼で鋼種区分4の材質を使用し、引張強さが800N/m m2以上のもの
・C1-50(各種製造方法のもの)
マルテンサイト系ステンレス鋼で鋼種区分1の材質を使用し、引張強さが500N/m m2以上のもの
・C1-70(焼入れ、焼戻しをしたもの)
マルテンサイト系ステンレス鋼で鋼種区分1の材質を使用し、引張強さが700N/m m2以上のもの
・C3-80(焼入れ、焼戻しをしたもの)
マルテンサイト系ステンレス鋼で鋼種区分1の材質を使用し、引張強さが800N/m m2以上のもの
・F1-45(各種製造方法のもの)
フェライト系ステンレス鋼で鋼種区分1の材質を使用し、引張強さが450N/m m2以上のもの
・F1-60(冷間圧造で強度を得たもの)
フェライト系ステンレス鋼で鋼種区分1の材質を使用し、引張強さが600N/m m2以上のもの